しつこいけど、また浅田次郎。上下巻合わせて700ページ強の労作だったが、年末恒例の得意先周りツアーのおかげで電車に乗る時間が多く、さくっと読んだ。

昭和20年に起きた実在の阿波丸事件がモデル。
『昭和二十年、嵐の台湾沖で、二千三百人の命と膨大な量の金塊を積んだまま沈んだ弥勒丸。その引き揚げ話を持ち込まれた者たちが、次々と不審な死を遂げていく―。いったいこの船の本当の正体は何なのか。それを追求するために喪われた恋人たちの、過去を辿る冒険が始まった。日本人の尊厳を問う感動巨編。』というのがAmazonでの紹介文。

終戦時・失われた2兆円の金塊・東南アジアからの財宝・過去と現代の交錯する構成・民間人多数の死など多くの点で前に読んだ「日輪の遺産」と類似。続けて読むとちょっとアレです。エピローグは「壬生義士伝」のバリエーション。

実際の事件そのもののミステリー性が高いのでドラマとしては確かに面白いのだが、今回現代の登場人物の二人の愛物語がちょっとチープで、緊張感に水を差す。この辺の描写は林真理子風。それと、あまりに都合の良い「偶然の出会い」もちょっとやりすぎ。作家としても気が咎めたのか「偶然は神の意思」などと言い訳めいたことも書いている。

まあ、そのあたりの軽さのおかげで、電車での移動途中に楽しむにはぴったり。来年にはNHKのスペシャルハイビジョンドラマでも見られるらしい。楽しみです。